世界切手国めぐり

アラブ首長国連邦

連邦化で奇跡の発展を続けるペルシャ湾岸の国 アラブ首長国連邦
●…7つの首長国

 ドバイやアブダビなど、ペルシャ湾の南側に連なる7つの小さな首長国で構成しているのが《アラブ首長国連邦》。現在は、アラビア半島の主要な石油産出国の一つとして発展しており、日本へも大量に原油を輸出しています。 1971年に、まず6カ国で連邦が発足した当初は、石油で潤う国と、資源の乏しい国が一緒になって、果たしてうまくいくだろうかと危ぶまれましたが、人びとの予想を裏切り、見事に成功しました。翌年には、ラス・アル・ハイマが連邦に加わります。切手には、こうした新しい国づくりの様子が、いろいろ紹介されています。


●…英国のインド航路と海賊たち

 アラビア半島は、かつてヨーロッパを脅かしたアジアの大国、オスマン・トルコの勢力下にありましたが、近代に入ると次第に勢力が後退していきます。代わって登場したのが英国でした。18世紀以後、英国のインド支配が強まるにつれ、アラビア半島の沿岸は、インド航路の重要な中継地となってきたからです。

 ところが、ホルムズ海峡から一歩入ったペルシャ湾の南岸や東岸には、多くの首長たちがそれぞれ小さな領土をもち、ときに互いに争っていました。これらは、しばしば《土侯国》などと呼ばれています。漁業や天然真珠の採取、それにオアシスでのナツメヤシの栽培などのほかには、これという産業のないこの地方の人たちにとって、最も手取り早い“商売”は海賊です。

 アラブの人たちは、しばしば“砂漠の民”と考えられていますが、本当は“海の民”でもあったのです。このことは、『千夜一夜物語』の「船乗りシンドバッド」の話を思い出されれば、ある程度、納得がいくでしょう。

 海賊の根拠地はシャルジャーやラス・アル・ハイマなどでした。彼らは強力な海賊船団を組織し、インド航路の英国船を襲います。たまりかねた英国は、1819年、インド洋艦隊をペルシャ湾に派遣し、ラス・アル・ハイマの城塞を占領。土侯に「海賊行為停止の一般協定」を調印させ、さらに土侯間の紛争を調停し、1853年には「永久休戦協定」が結ばれたのでした。《トルーシャル・コースト》は、その後このあたりの沿岸地方を示す地名になりますが、
これは文字通り《休戦海岸》を意味しています。

 なお、1961年には、ドバイを中心に、《トルーシャル・ステーツ》の切手が発行されました。これは10年後の《アラブ首長国連邦》の発足を暗示するものと言えましょう。


●…石油のもたらした奇跡

 1960年代に入って、アブダビを中心に次第に石油生産が本格化しはじめると、英国はそれを経済的なテコに、連邦化を進めます。しかし国力の低下した英国は、やがて《スエズ以東からの撤退計画》を発表。これを機に首長国の連邦化が一層早まり、1971年12月には、ラス・アル・ハイマを除く6つの首長国が統合され、《アラブ首長国連邦》が発足したのでした。残ったこの首長国も、翌年には連邦に参加しています。
 その後は、油田の中心アブダビと、良港に恵まれたドバイを核に、連邦諸国は急速な近代化を多方面にわたって進めていくことになります。


●切手の変遷

 さきに触れた1961年の《トルーシャル・ステーツ》の切手は、一種のフォアランナーと言えましょう。ナツメヤシを描いた低額とダウ船をデザインした高額からなるシリーズで、英国で印刷されたものです。ダウ船は“海のラクダ”とさえ言われ、アラブの人達がインド洋を乗りまわした小型の木造帆船でした。しかし、'63年以後は、ドバイをはじめ、それぞれの首長国が切手を発行していきます。
 連邦結成後の一番切手は翌年の1972年。アブダビの切手に国名のイニシャル《UAE》を加刷したものです。

'73年には、各連邦共和国の風景や首長の肖像を描いた正刷切手が発行されました。その後は石油産業と関連したものや、国際的行事のキャンペーン切手などが目につくようになりますが、発行政策は至って健全です。


■アラブ土侯国の切手のふるさと

 一九六〇年代から70年代にかけて、郵趣ブームに湧く日本で、突如見知らぬ国々の大型で派手な切手がフィラテリストをとまどわせた。いわゆる《アラブ土侯国》の切手である。ご記憶の方も少なくあるまい。

 アジマン、フジェイラ、ウム・アル・カイマン、シャルジャー、ラス・アル・ハイマなど…、いずれも今ではアラブ首長国連邦の構成国である。現在、急速な近代化が進められているが、当時は貧しい土侯≠フ治める中世的ともいえるイスラム教の小国に過ぎなかった。

 土侯≠ヘShelk。これにdom≠つけたものが土侯国≠ニなるが、もともとは貧しい遊牧民を束ねる族長≠ナあった。やがて、オアシスなどを中心に定住し、ささやかな城≠中心に小さな都市国家を築いていったのである。

 これらの土侯国≠ヘ、それぞれ60年代の初めから70年頃まで、スコットカタログ≠ナも採録された、まともな切手を発行している。したがって、あの《アラブ土侯国》の切手の来歴が問題となるが、必ずしも無根拠ないわゆるシンデレラもの(継子扱いされる郵趣材料。正規の郵政機関の発行でない切手や、亡命政権発行の実際に使えない切手など)ではなく、恐らくはどこかの切手商が、ごく一時期、これらの国々から切手発行権を獲得し、郵趣家向けに乱発したものかと推測される。

どなたか、当時の関係者が『アラブ土侯国切手始末記』のようなものをおまとめになってはいかがだろうか。日本郵趣史への証言≠ニして貴重な文献になることは間違いないからである。
アラブ首長国連邦 地図

 アラブ首長国連邦  United Arab Emirates
 面積:7万7700ku
 首都:アブダビ(24万3000人)
 人口:185万人('94年)
 住民:アラブ人言語:公用語はアラビア語
 宗教:イスラム教
 資源:石油・天然ガス
 通貨:ジンバブエ・ドル

国旗
 国  旗
切手 絶滅に瀕した動物4種シート アラブ首長国連邦
絶滅に瀕した動物4種シート
六角形切手4種を六角形のシートに納める。
アラビアンオリックス、マウンテン・ガゼル、サンド・ガゼル、アラビアタール。
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